| ■8 / ResNo.1) |
とらいあんぐるハツ【とらいあんぐるハート2】
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□投稿者/ 脳味噌ド腐れキモオタ管理人 -(2024/11/06(Wed) 07:16:11)
| 「小さい頃、薫は良く哭く子でした…」
十六夜さんは、まるで遠くを見るように目を細めて、しみじみと話し始めた。
「場にイーピンが出たと言っては哭き、ハクが出たと言っては哭き…」 「そんで、結局役が出来ずに流れてしまう…。初心者にありがちなパターンで すよね…」 俺の言葉に、十六夜さんは「ええ…」と頷く。 そうそう、俺も昔良くやったな、それ。上がりやすいピンフとかタンヤオと か狙って手牌を組んで行くんだけど、場に自分の欲しい牌が出ると、後先考え ずに哭いちゃうんだよね。ついつい初心者って…。
「初めて、哭かずに上がれたのは中学になってからでしょうか? それまでは 役もできていないのに上がって、いつもチョンボになっていました……」 くすり、とまるで、手の掛かる弟子の昔を思い起こす師匠のように笑う十六 夜さん。 俺はそんな彼女の笑顔を見ていると、何故だか胸の奥が暖かくなってくるの を感じた。 ああ、彼女にとって薫はまさに愛弟子なんだなぁ〜…と、俺はその時思った。
「しかし、十六夜さんって将棋や囲碁の他にも、麻雀が打てるなんてね〜…」 「先々代の神咲家頭首に連れられてあちらへ渡った際、向こうで知り合った現 地の退魔師に習いまして…」 「へぇ…」 「ふふふ、得意な上がり役は国士無双で、皆様から“十三面待ちの十六夜”と 呼ばれておりました…」 「へ、へぇ……」
☆ ☆ ☆
場所は変わって、さざなみ寮1Fのリビング。 ここでは、真雪、愛、ゆうひ、薫の四人が雀卓を囲んでいた。
火の付いていない煙草をくわえた真雪が、神妙な面持ちで山から牌を一枚引 く。 「……」 引いた牌の絵柄を見た彼女の表情が徐々にニヤけてゆき、そして、 「よっしゃっ! ツモったっ!!」 と自分の手牌をさらす。 真雪の手牌は綺麗な緑で染まっていた。
緑一色(リューイーソー)と呼ばれる、緑色の絵柄だけでつくる役満の一つ だ。
「あらあら、真雪さん役満ですか? 凄いです〜」 呑気な声を上げる愛。 「緑一色!? あっちゃ〜、やられた〜…。きっついな、もう…」 オーバーリアクションで顔に手を当てるゆうひ。 「へっへっへっ、悪ぃね、みんな」 と言いながらも全然悪びれてない様子で、それどころか喜々とした表情で面 子から点棒を要求する真雪。 「はい、それじゃ払って貰おうかね」 だが――。 「仁村さん!」 薫の声がそれを制した。 「ちょっと待ってもらいましょうか?」 責めるような視線で真雪を睨み付ける薫。 「な、なんだよ、神咲ぃ、そんな怖い顔しちゃってさ」 さしもの真雪も思わず怯む。 薫は真雪を睨み付けたまま、自分の手牌をさらした。 彼女の牌は、まるでドミノのように綺麗にパタパタと倒れてゆく。
「まぁっ!」 「およよっ!」 薫の手牌は、ただの三暗刻(サンアンコー)くずれだったが、それを見た愛 とゆうひが驚きの声を上げる。 一方、「ちっ」と小さく舌打ちする真雪。
真雪の緑一色を構成する牌の中には、当然ハツが三枚あった。 そしてまた、薫の手牌の中にも何故かハツが三枚――。
「ウチの手牌の中にハツが既に三枚あるのに、なんで仁村さんの手牌にもハツ が三枚あるとですか!」
麻雀では、同じ絵柄の牌は四枚しか存在しない。つまり、それ以上の牌があ るのは誰かがイカサマをしたと言うことである。 この場合、普段の行いと性格から見ても、薫がイカサマをするとは考えにく い。 故に、真雪がイカサマをしたのは明かであった。 事実その通り、彼女は今回の局が始まる前、密かに自分の手牌にハツを三枚 紛れ込ませていた。 こうしておけば、上がったとき最低でも役牌で一翻付くし、ツモが良ければ、 三暗刻や対々(トイトイ)辺りを狙える。 実際、緑一色を上がれたのは嬉しい誤算だった。 しかし、まさかよりによって薫の手牌にハツが三枚行っていたのは嬉しくな い誤算だったが――。
「さぁ、説明してもらいましょうか? 仁村さん!!」 何処からともなく木刀を取り出し、真雪の喉元に突きつけながら、より一層、 きつく彼女を睨み付ける薫。 当の真雪はと言うと、ボリボリと頭を掻きながら自分の手牌の中からハツを 取り出し、おもむろに三角形の形に並べた。
「こう、ハツを三角形に並べると…だな」 「……」 「トライアングル、ハツ……。つまり、とらいあんぐるハート2…なんてな…」 シーンと静まりかえるリビング。 「たはは」と苦笑するゆうひ。 なにが起きたか判っていない愛。 そして怒りに肩を震わせる薫。
「言い訳になってなかぁっ!!」 木刀が唸る。 「おっとっ! 危ない危ない…」 紙一重にそれをかわす真雪。 ちっ、と短い音を立てて、彼女の口にあった火の付いていない煙草が散った。 真雪は軽く口笛を吹いてから身を翻し、リビングのドアまで逃げる。 「いいじゃんよ〜、遊びなんだから…な? ほんのお遊びお遊び」 「例え遊びの席でも、不正は良くなかです!」 「ちぇっ、相変わらずお堅いヤツ…。そんなんじゃ耕介に嫌われちまうぞ」 「なっ!!」 真雪の口から耕介の名前が出た瞬間、薫の顔が一気に朱に染まった。 「おーおー、わっかりやすいヤツ…」 「ウ、ウチと耕介さんは、そんな関係じゃなかです!!」 「とかなんとか言っちゃって、顔がそうは言ってないぜ」 「は、話ばすげ替えんで下さい!!」 「そうかそうか、あの朴念仁の神咲がねぇ…。いっちょまえに、ちゃんと女性 ホルモン分泌してたんだねぇ〜」 「人の話を訊けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 更にあおる真雪に、顔を真っ赤にした薫が迫る。 彼女の手にした木刀が上段から振り下ろされた。 轟と疾る木の刀。 しかし――。 「甘いっ!」 と真雪は薫の攻撃よりも早く廊下へ飛び出す。 「へへ〜ん、そんなヤワな打ち込みじゃあたしは倒せないぜ、薫ちゃん」 薫を挑発するように、廊下で“おしりペンペン”をする真雪。 「…にぃ〜むぅ〜らぁ〜さぁ〜〜〜んっ!!」 それを見た薫の怒りゲージは、一気に、ゴゴゴゴ――と擬音が聞こえてきそ うな程に膨れ上がった。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 「ケケケ、待てと言って待つヤツぁ、ただの馬鹿だけさ〜」
☆ ☆ ☆
「薫は、本当に強くなりました…」
優しく微笑む十六夜さん。 その笑顔は、弟子の成長を喜ぶ師匠のそれであった。 「でも、まだ子供ですけどね…」 「そうですね…」 階下で聞こえるいつものドタバタ騒ぎを耳にしながら、俺もそう思った。
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